エンジニアと営業が一緒に働くフクロウラボが「余白」を大切にする理由
リモートワークにならざるをえない、なかなか対面で会議ができない。チームのコミュニケーションの関心がいっそう高まる中、フクロウラボのコミュニケーションについて執行役員の有岡 卓哉(ありおか・たくや)さんにお話を聞きました。
聞き手:出川 光
伝える側に責任があるという文化
──今日はフクロウラボのコミュニケーションについてお話をきいてみたいと思っています。さっそくですが、フクロウラボらしいコミュニケーションと言われて何を思い浮かべますか?
伝え方ですね。フクロウラボには、「伝える側に責任がある」という文化があります。言い換えれば何かを伝えてうまく伝わっていなかったら、それは伝えた側に責任があると捉えられる。そのためにかなり丁寧に伝える努力をされている会社だと思います。
──ITベンチャーらしくない感じもしますね。
確かにそうですね。多くのITのベンチャー企業では「まずググってみて」「ドキュメント読んで考えて」というコミュニケーションがあるのは想像がつきます。けれど、フクロウラボのメンバーにはインターンもいるし、未経験で入ってくれるメンバーもいる。1を伝えて10を理解する人ばかりではない環境で、伝えられる側に責任をおいてしまうとエラーが多くなるので、このような文化ができあがったとも言えます。
──この文化を最初に作ったのはどなたなんでしょうか。
言い出したのは代表の清水さんですね。チームの人数が10人を超えてきたタイミングで、コミュニケーションエラーが頻発するようになったことからこの文化ができました。最初聞いた時には僕も驚いたのを覚えています。けれど、しばらくするとその良さがわかってきました。現在のフクロウラボの環境のなかでベストな結果を出すためにこの形をとっているんです。
エンジニアと営業、全く違う言語を話すやりとり
──「現在のフクロウラボの環境のなかで」とおっしゃっていましたが、実際にどのようなコミュニケーションが行われているのでしょうか。
フクロウラボはエンジニアチームとビジネスサイドのチームが一緒に働く組織です。エンジニア側から、ビジネスサイドのニーズを直接聞きたいという要望があったので、チケットやタスクベースではなく、直接話すコミュニケーションをしてもらっています。
──エンジニアチームからそういう要望があがったんですね。すごいことですね。
ちょっと珍しいかもしれないですね。エンジニアチームには、いいものを作ることはもちろん、それが何に生かされているかを重視している人が多いからそういう要望が上がるのだと思います。技術的にイケているとか、新しいコードを書くといったことだけではなく、それがどう使われてどうビジネスになるかに興味を持ってくれているので、要望の背景から話してもらうようにしています。
──具体的には、どんな風に話すのでしょう?
実は、そのルートにはオフィシャルとアンオフィシャルがありまして。
──どういうことなんでしょう。
オフィシャルは、営業チームで要望をリストアップしてもらい、僕と営業チームで要件にまとめて、エンジニアがいる会議に出席して要望を話すというものです。「レポートがおかしい」などの不具合はSlackのチャンネルを利用して営業チームからエンジニアに問い合わせてもらう形をとっていたり、管理画面で対応していないけど突発的に必要になったレポート抽出などは後者で対応していることがあります。それが重そうであれば、前述の会議にかけて要件になることもあります。
──なるほど。この時の話す順番などで「伝える側が責任を持つ」ために意識されていることはありますか?
僕が実践しているのは、このようなことです。
──ひとくちに「伝える側が責任を持つ」といっても、このような工夫が凝らされているんですね。確かにこれならきちんと伝わりそうです。
あえて余白を作ること
──ここまではオフィシャルの、通常ルートの伝え方をおしえていただきました。アンオフィシャルの方はどんなことなのでしょう。
これは、コーヒーを飲んでいる時などの休憩時間や、エンジニアのデスクにふらっと営業メンバーが行って話しかけるルートのことです。
──このルート、禁止している会社も多いですよね。
確かにエンジニアがエンジニアリングに集中した方が良いという考えもわかります。「こんなことにエンジニアを使うな」という文化の会社も知っています。ただ、このアンオフィシャルなルートによって事業がうまくいっている面があるのも事実です。例えばエンジニアが少しコードを書けば運用コストをかなり減らせることに気付けるといった問題の芽になりそうなできごとを早めに摘むことで結果的に事業がスムーズに進んでいるのです。もちろん、将来的には情シスが担うようなことや些細な作業をエンジニアにやってもらってしまっている面もあるのですが、そこはフクロウラボのエンジニア。みんな優しくてビジネスサイドの役に立ちたいという気持ちを持ってくれているんです。
──優しさが支えているというのもフクロウラボらしいですね。
そして、このアンオフィシャルなルートがもたらしてくれるもうひとつの効果を、僕は意外と大事だと思っているんです。
──どんなことなんでしょう。
それは、営業をはじめとするビジネスサイドが、エンジニアとコミュニケーションをとることで自発的に技術を勉強してみたり、エンジニアの視点でものごとを考えられるようになったりすることです。考えてみれば自然なことで、エンジニアとよく話していれば、彼らがどんなことをやっていて、どういう考え方をするのかがわかってくる。それを自分の業務に置き換えると、「もしかしてこの作業はコードを書けばやらなくていいんじゃないか」「ちょっとやってみるか」ということになるんです。こういう自発的な学びを促せることが、フクロウラボの未来にとっては一番大きな結果なのかもしれません。
──そういう効果も見込んで、アンオフィシャルのルートを設けているんですね。
設けているというよりも、余白を残しているという感覚です。どんなことでも、ルールでぎちぎちに縛ってしまうより、余白やあそびを残しておくことでうまく進むことがある。まだまだ成長途中のフクロウラボにとっては、それがあったほうが前に進めるスピードが早いということです。少数型のベンチャー企業なら、こういう形もいいのではないかと思います。
インタビューを終えてみて、フクロウラボのメンバーの姿を思い出してみると、確かにエンジニアのデスクの横で話し込んでいる営業メンバーや、一緒におやつを食べている姿などが次々に浮かんできました。お互いに歩み寄って、伝える側が伝え切る。そして余白を使ってスムーズにものごとを前に進める。フクロウラボらしいコミュニケーション術、活かせる場面がたくさんありそうです。
(写真・文:出川 光)